―――  仲直り




「だから、わるかったって言ってんだろぉ?」
「お前のわるかったはあてにならないんだよ」
 あまり悪びれない様子で肩をすくめる幼なじみに、おれはため息をついた。
 なんでかって?
そりゃ、こいつが有り金全部、ギャンブルですったからさ。
「な〜…クレイちゃん、そろそろ許してくんない? そのうち倍にして返すからさ」
「…それがよけいだって言ってんだろ」
 そういい捨てた後、おれは、なるべく顔をあわせないようにして、早足で森の中を歩いた。


 おれは、クレイ。
エベリンで冒険者テストを受けるためにドーマから旅をしてる途中だ。
……この、ギャンブル好きの幼なじみ、トラップと一緒に。
 旅に出たはいいが、こいつ、いきなり有り金全部、ギャンブルにつぎ込みやがった。
それも、借金までして……。
 おかげでおれは、家から持ってきたアーマーを売って…コレを着ける羽目になった。
歩くたびにカランコロンと音のなる、竹でつくったアーマーを。
 エベリンまで乗合馬車で行く金なんかないとなれば、当然危険も増す。
その中でアーマーなしで旅するのは危険だし、格好もつかない。
だから道中、手近な材料を使ってコツコツつくり、しばらく前にやっと完成させたものだった。
 けど、そもそもの原因を作った本人は、出来上がったアーマーを見て大笑いするんだぜ?
一体誰のせいでこうなったと思ってんだ!

 ……おれが怒るのもわかるだろ…?


「おーい、クレイ。クレイちゃ〜ん?」
 後ろから様子をうかがうような声が何度も聞こえる。
 さすがにうるさくなっては来たけど、ここで許しちゃ腹がおさまらない。
 だけど、下手に殴りかかったって避けられるのがおちだ。
なんてったって、盗賊団の頭領の息子で、冒険者の職業も盗賊志望だ。
すばしっこさは天下一品、猿みたいに木に登る。
 口も悪いから、いい合いをしても負けることは目に見えてるし。
 だから、おれにできることなんて、あいつに、おれが本気で怒ってるってことを思い知らせてやることくらい。
 いくらそうしても、全然応えた様子を見せないってことは長い付き合いでわかってるよ。
でも、少しだけでも悪かったって思ってる姿が見たいんだよ。
そうすればきっと、このムカムカもおさまると思うから…。
 そんなことを考えながら、はぁっとため息をついた時だった。
「あ―――――…もう、悪かったって、クレイ」
 バシッと思いっきり背中と叩かれたと同時に、あいつが肩を組んできた。
 おれは、その少しトーンの違う声を聞いたとたん、自分の顔に笑みが浮かんできたのがわかった。
「…もう、ギャンブルしないって言うなら許してやるよ」
 苦笑と共にそうあいつに言ってやる。
とたんにおれから離れて、
「そりゃ、あんまりじゃねぇ?」
と肩をすくめるあいつは、スキップしながらおれより前に出て、こう言うんだ。
「約束はできねぇな〜」

―― そんなこと、わかってるさ

 両手を頭の後ろで組んで鼻歌まで歌う背中に、心の中でつぶやいた。
 ま……言わなくてもおれの考えてることなんかわかってるだろうけどな。
 トラップはそれ以上何も言わず、ただ、足取りも軽く、森の中を進んで行く。
 おれも、ただ静かにその後を追った。




   fin






――――――――――
≪2004.8.27にお届け≫
椎森ぐんさんへの「黒の書」2500Hitのキリ番リクエストの贈り物。
「トラップとクレイの友情ものの小説」…のつもりです。(爆)
時期的には、FQ外伝「パステルの旅立ち」でパステルたちに出会うちょっと前という感じです。
ぐんさん、どうもありがとうございましたv





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