―――  A Prayer




「うぅ…やっぱり外は寒いね」
 ドアを開けて外に出たわたしは、赤いコートに手を通した。
 隣の幼なじみと一緒に店先に座ったわたしは、彼女に視線をむける。
それににこっと笑った彼女は、たくさんの星がまたたく澄んだ空を見上げた。


 わたし、パステル。パステル・G・キング。
職業は冒険者で、詩人兼マッパーやってます。
 今は、わたしたちパーティは、ガイナにいるの。
と言っても、ノルは妹のメルに会いに行っていて、
キットンは自分の一族のこととかを解きあかすために出かけているから、
今ここにいるのは、わたしとルーミィ、シロちゃん、クレイとトラップだけなんだけどね。
 クレイたちはマリーナと一緒にドーマに帰るところだったんだけど、
途中までは一緒の道をいくから、同じ乗合馬車にのって行ったの。
 ガイナに到着したところで、どうせだからわたしの家で1泊していかない? ってことになって、結局…2日泊まってる。
この調子だと、もう1泊してからドーマに行くことになるかな。
 今日は、みんなが歓迎会を開いてくれて、さっきまで、ダイナのお店でドンチャン騒ぎ。
 あ、ダイナっていうのはわたしの幼なじみで、わたしと一緒で、「チャク・デスの死の行進」によって両親を亡くした1人。
今は、ずいぶん復興したこの町で、年の離れた弟の面倒を見ながらパン屋をやってるの。
 彼女のお店をそのまんまにして帰ることなんてできないし、昨日まではなんだかんだと話す時間もとれなかった。
だから、みんなには、片づけを手伝ってから帰るからって言って、うとうとしてたルーミィをまかせて先に家に帰ってもらったの。


 片付けも終わって、やっと2人になったわたしたちは、眠ってるダイナの弟を起こしちゃいけないと思って、外に出て話すことにしたの。
 ダイナは、小麦色の髪をアップにしてて、別れた時よりもすごく大人っぽくなってた。
 星空を見上げる彼女の視線を追って、わたしも空を見る。
 しばらく言葉もなく、またたく星や薄い三日月を見つめてた。
「……約束、守ってくれたね」
「……うん」
 ダイナの小さな声に、わたしはうなずいた。

 “元気で帰ってきてね”

 それが、冒険者になるためにガイナを出る時、ダイナと交わした約束。
2年経って、やっとこの町に帰ってくることができた。
「手紙とか、パステルの冒険小説を見てるから、元気なことはわかってたんだけどね」
 くすっと笑って、ソバカスだらけの鼻の頭をわたしにむけた。
「ダイナも元気そうでよかった」
「うん」


 それからわたしたちは、お互いに会わなかった間のことを話したの。
 わたしは、やっぱり、パーティのみんなや、冒険のことが中心かな。
ガイナを出てから話して、後は小説に書ききれなかったこととかを話したわ。
 ダイナは、このガイナのこととか、友達のこと。
2年会わなかっただけで、みんな変わったんだなってことがわかった。
もちろん、全然変わってないところもあるんだけど、やっぱり、ガイナ復興のためにはいろいろ…ね。


 話しててすごく懐かしかったし、楽しかった。
でも、やっぱり、あの時のことを思い出して、気がついたら涙が出てた。
 あれから2年たったんだから、大丈夫かな……って思って帰って来た。
 町も、チャク・デスにやられたばっかりの悲惨な状態からは想像もできないくらい明るくなってる。
けど、家に帰ればどうしても父さんや母さんのことを思い出すし、
こうやってあの惨状から必死で立ち上がってきたガイナの状況を聞くと…とても、耐えられなかった。
 いつのまにか、2人とも何も言わずに泣いてた。



「……目、赤くないかな?」
「うん、大丈夫」
 あの後、落ち着くまでしっかり涙を流したわたしたちは、中に入って顔を洗った。
泣いたまんまの顔で家に帰ったら、みんなに心配かけちゃうしね。
「今日はありがと。明日も早いのに遅くまで付き合わせちゃってごめん」
「ううん。わたしがパステルと話したかったんだもん、気にしないで」
 外へのドアの前に2人で立って肩をすくめると、知らず微笑みが沸いてきた。
ダイナはその笑顔のままでわたしの右手を両手で包んだ。
「あのね、これだけは絶対に伝えたいって思ってたことなんだけど…」
 そこで一度言葉を切ったダイナの瞳が更に細く、やさしくなる。
「…ここガイナで、パステルの無事を祈ってるみんながいることを忘れないで」
 わたしは、また涙がにじんでくるのがわかって、それにうなずくことしかできなかった。


 その後、彼女と抱き合ったわたしは、澄んだ星空の下、ゆっくりと家に帰った。
ダイナの言葉をしっかりと胸に刻みながら。





    fin






――――――――――
≪2004.8.27にお届け≫
1830Hitを踏んでくださった、いおりさんへのキリ番リクエストSS。パステルの友情ものの小説です。
題名は「祈り」という意味。
新FQ1巻の冒頭あたりにあるガイナでの生活の一場面ということで…。
どうもありがとうございましたvv





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