――― 春待ち月
「なぁ……」
大きな荷物を抱えたまま、自分にできる限りの不機嫌な声を出した。
「な、なに?」
おれの不機嫌な声に対して、視線を明後日の方向に向けてごまかすように言う姿に、こちらもあからさまな溜息を返してやる。
「これ、重いし。……何よりさみいんだけど」
「だからー! 荷物のことについては悪かったって言ってるじゃない。ごめんってば。でも安かったんだもん」
バイトの帰りに、大荷物抱えたこいつに会っちまったのが運の尽き、とでもいうのだろうか。
でも、いいところに来てくれた! と、追加で買い物をしてさらに荷物を増やすこいつもどうかと思う。しかもそれが店をはしごしての行動なんだから尚更に。
……まぁ、両手をあわせてお願いしてくる姿をかわいいと思ってしまった時点でこっちの負けなのは明らかなんだが。
というか、かわいいと思っちまったってのが自分のかなりの重症っぷりを宣言しているようで、こればっかりは到底面に出せやしねえんだけど。
おれのそんな思いを知る由もないこいつは、小さく息を吐くおれには気付かずにすたすた歩いていた。
「でも寒いのはしょうがないでしょ。冬なんだもん! それは私のせいじゃないわよ」
力説するなよ、んなこと。
寒いのは確かに冬だからな。そんなこと、言われなくてもわかってる。
ただの荷物持ちっていうこの状況がきついってのは、まったくもって伝わってないんだろうな。
はぁぁ。
せめて、この二人で歩いてる状況がもう少し色気のあるもんだったら、もっとこの状況を楽しめるのに。
伝わるわけもないと思いつつ、億が一くらいの可能性にかけてかまをかけてみる。
「これでせめてもちっとあったかけりゃなあ」
ちらりと隣りを盗み見て呟くように言うと、案の定というか何というか、想像した通りののほほんとした答えが返ってきた。
「そうだよねぇ。春になったら暖かくなるし。待ち遠しいね」
……春になったら、ね。
伝わるわきゃねえとわかってた。わかってたんだけどな。
おれが言ってんのは、そういうことじゃねえんだっつの。
下を向いて小さく嘆息した。
ったく。こっちの春はいったいいつ来るんだか。まあ、それもいまさらっちゃいまさらの話なんだけど。
「だいたい何こんなに買い込んでんだよ」
「え、いろいろ。消耗品とかルーミィの服とか。お買い得セールしてたんだもん。買い足りない気がしてたから、ちょうど通りかかってくれて助かっちゃった」
「通りかかる前から大荷物だっただろ」
「うん」
「あのなぁ、ちったあ後先考えて行動しろよな。おれが通りかかんなかったら荷物抱えてどうする気だったんだ」
「んー。なんとかなるかな、って思って」
「今日はクレイもノルもバイト休みじゃなかったか?」
「休みだったよ」
「じゃあ声かけてつれてくりゃ良かっただろ」
お人好しが服着て歩いてるようなあいつらだったら、ちょっと頼めばついてきてくれんだろうに。
「そうなんだけどさ。ここまで買うつもりじゃなかったのよ」
「……それが何でこんなに買ってんだ」
「え。あはは。だって思ってたよりも安かったんだもん。それに、ちょうどトラップのバイト終わる時間に近かったし、何となくだけど会えそうな気がしたから」
そう言って、はにかんだように笑うのを見て、一瞬動きが止まってしまった。
今こいつ、なんつった?
「なに?」
「いや」
思わずにやけそうになる口元を手で覆って、ごまかした。
今の一言は、本当に何気ない一言で。
こいつのことだから絶対に意識しての一言じゃないっていうのは、いやってほどわかってるけど。
意識してないからこそ。
会えるかもしれないと思ってくれた、そんな些細などうでもいいようなことが嬉しくて。
「? どうかした?」
「なんでもね」
くくっと笑いながら答えたおれを見てより一層不思議そうな表情を浮かべる姿に、笑いがこみ上げるのを止められなかった。
「なによ。1人でニヤニヤ笑っちゃって。感じ悪ーい」
むっと頬を膨らませる姿も、おれにとっては痛くも痒くもないものだから。
「なんでもねえって。いや、ほんっと、春が待ち遠しいよな」
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椎森ぐん様にいただきました。寒中見舞いSSですv
いやぁ〜…トラップ、かわいいですね〜。(笑) パステルのちょっとした一言にこんなに喜んでいる彼が好きですね♪
どうもありがとうございました!!
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