―――  Play A Trick




 はやる気持ちを抑えて、階段を駆け上がって軽く切れた息を整えた。 
 小さく息を吸って、コンコン、とドアをノックした。 
「どうぞー?」 
 中から聞こえたのは、久しぶりのあったかい声。 
 かちゃっとドアを開けて、部屋の中を覗き込んだ。 
「パステル、久しぶり!」 
 わたしの声を聞いたパステルは、ガタン、と大きな音を立てて椅子から立ち上がった。 
 そしていつもの満面の笑顔。 
「きゃあ、マリーナ! ひさしぶり!」 
「あけましておめでとう!」 
「おめでとー。ほんとにひさしぶり! いつこっちに来たの?」 
 パステルは歓声を上げながらわたしの方に駆け寄って来た。 
 そんなパステルに笑顔を向ける。 
「ついさっき。仕事でちょっとこっちの方に来たから。せっかくだから顔出してこうと思って」 
「そうなんだー。久しぶりに会えて嬉しい」 
 にっこりと笑顔で言われた言葉にこっちまで嬉しくなる。 
 変わらない笑顔。 
 見てるだけでほっとする。 
「ゆっくりしていけるの?」 
「うーん、実は人を待たせちゃってるからそんなに長くはいられないの。ごめんね」 
 せっかく会えたんだから、ゆっくりしていきたかったんだけどね。 
 わたしも仕事の途中だし、わがままは言えない。 
「そんな。時間ないのに会いに来てくれたなんて嬉しいよ。お茶していくくらいの時間はある?」 
「うん、それくらいなら」 
「よかった。今とっておきのお茶を入れてくるわ」 
「気にしなくていいのよ」 
「ううん、せっかくマリーナが来てくれたんだもん。ちょっと待っててね」 
 パステルはそう言うとパタパタと部屋を駆け出していった。 
 久しぶりに会えたわたしの友達。 
 ほんとに、会えただけでじゅうぶん嬉しいのに。 
 幸せな気持ちでパステルの後ろ姿を見送るわたしの背後から、機嫌の悪そうな声があがった。 
「何いきなし来てんだよ」 
 不機嫌そうな声。 
 もちろん声の主はトラップだ。 
「あら、いたの」 
 いたのってお前……とトラップが言おうとするのをあえて無視する。 
 もちろんいたのは知ってたわよ。 
 パステルのとこにいるの知ってて入ってきたんだから。 
 当然それをじゃまする意味もこめて。 
 いっつもパステルを独り占めにしてるんだから、これくらいはかまわないわよね。 
「それにしても、仮にも同じ屋根の下で育った相手に対して随分な言い方よね」 
「せっかく来たのにおれたちには挨拶もないのかって言ってんだよ」 
「挨拶ならさっきクレイにしてきたわよ。あんたがそこにいなかっただけじゃない」 
 しれっと言ってやった言葉に、トラップは絶句していた。 
「それであれから何か変わったこと……なんてあるわけないか。あんたのことだもんね」 
「あんだよ、それ」 
「言葉どおりの意味」 
 作り上げた満面の笑顔でそう伝えると、トラップは何かを言い返そうとして口を開きかけ、結局憮然とした表情でふいっと顔を背けた。 
 ふふっ、見事に予想を裏切らない反応! 
 まったく、こういうとこだけはほんとに変わんないわね。 
 やーっと両想いになれたって聞いてたから、もしかしたらちょっとは変わってるかもしれないと思ってたのに。 
 むすっとした表情を崩さないその顔に、苦笑が浮かぶ。 
「いつまでもそんなふうじゃ、いつか誰かに足元掬われちゃうから」 
「大きなお世話だ」 
「まあ、わたしはあの子が幸せになってくれるんなら相手にはこだわらないけど?」 
 あんたよりいい人いたら、そっち勧めるもの。 
 言外に含ませた言葉に、憮然とした表情がますます硬くなる。 
 まったく。 
 ことこの事に関しては情けないんだから。 
「せっかく通じたんだから、大事にしなさいよね」 
「うるせぇ」 
「まー、いい態度じゃない。そういう態度とってると、パステルにあることないこと言っちゃうから」 
 わたしのことばに、トラップはげっと顔をしかめた。 
 その表情にくすくすと隠しきれなかった笑いがこぼれる。 
「お前、そういうのは冗談でもやめろ」 
 それでなくても人の言葉を鵜呑みにする奴なんだから。 
 そう言われたことばにはかなりの説得力がある。 
 そうよね。 
 あの子なら簡単に信じてくれそう。 
「そうよねー。特にあんたの場合は身に覚えありまくりですものね」 
 廊下からパステルの足音が聞こえた。 
「さ、トラップ。せっかく久しぶりに会う女の子の時間を邪魔しないでよ」 
「はぁ?」 
「わかんないの? まぁ別にいいわよ? トラップの小さい頃の恥ずかしい話を一緒に聞きたいっていう……」 
「っだー! わぁったよ! 出りゃいいんだろ! その代わり変なこと言うんじゃねえぞ!」 
 そう叫ぶと、トラップはわたしの返事も待たずに窓から向かいの木に飛び移った。 
 ……返事も聞かずに飛び出しちゃったけど、いいのかしら? 
 わたしは約束なんてしてないわよ? 
 トラップが飛び出たのとちょうど同じタイミングで部屋のドアがあいた。 
 そこにはもちろん、お盆にティーセットを載せたパステルの姿があった。 
「おまたせー」 
「ありがとう、パステル」 
「どうしたの、マリーナ。なんかすっごく嬉しそう」 
「そんなことないわよ?」 
「あれ、トラップは? せっかくトラップの分のお茶も入れてきたのに」 
「さぁ? 急用でも思い出したんじゃない?」 
 ほんとはわたしが追い出したんだけどね。 
「ふぅん。あ、もしかしたら気を効かせて出てったりしたのかな?」 
「まっさかー。あいつがそんなに気が効くわけないじゃない」 
「そっか。そうだよね」 
 パステルにまであっさりそう思われちゃうんじゃ、トラップも救われないわね。 
 浮かびそうになる苦笑いを必死で隠した。 
 でもきっと幸せなんだろうから、これくらいかまわないか。 
 あいつの困った顔見てると飽きないし。 
 さっきの憮然とした顔を思い出して、とびっきりのおもちゃを与えられた子どものような気分になった。 
 こんな楽しいこと、そう簡単にはやめられない。 


 さぁ、今年はどうやってあいつをからかってやろうか?








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 椎森ぐん様のサイト、「飛べない鳥」からいただいて参りました、年賀状SSです。
 この、じれったいトラパスを読むと、トラパス好きにはたまらないですねv
 どうしてこうも上手くトラパスを書けるのか…知りたいものです〜。
 ぐん様、どうもありがとうございました!!











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