―――  いっしょ




 なんとなく息苦しい。空気がむんむんしてる。 
 あっちぃー!! 
 こんな日は外に出ないで、じーっとしてるのが一番! 
 …なんだけどさ。 
「だからってなんで、みんなしてこっちの部屋に集まってんのよぉ〜」 
 わたしたちの定宿、みすず旅館の部屋は風通しがいい。 
 ぼろいからねー。ははは。 
 だから、夏はわりと過ごしやすい、と言えなくもない。 
 もっとも夏なんて今みたいにリッチな時じゃなきゃ泊まらないけどね。野宿シーズンだから…って、それは置いといて。 
 いくら過ごしやすいったって。せっまい部屋にノルをのぞく全員が大集合しちゃってれば、さあ。 
 ほら見てよ。 
 汗がだくだく! 額から頬からあごから、背中から胸から……! 
 ぐわぁ〜! じっとしてても噴きでてくるよぉ〜。 
 せめて男どもがいなきゃあ、もうちょい快適に過ごせるかもしれないのにっ。 
「そういえば…なんでわざわざ一部屋にかたまってるんだろうな、おれたち」 
 自分の手をうちわにしてぱたぱたやっていたクレイが、ふと手を止める。 
 いちおう剣の手入れをしている最中なんだけど、どーも集中できてないみたいね。彼らしくもなく。 
 キットンはいつもと変わらない様子で薬草の調合かなにかをしていたけれど、クレイの言葉に顔を上げた。 
「そういえば…そうですよねぇ。この暑いのに暑苦しいメンバーで顔をつきあわせて」 
 いちばん暑苦しいのはキットンだけどね。なんてこと、わたしは口にしない。 
「なんでだろうな」 
「なんででしょう」 
 ……わかった。 
 こいつらが、なーんも考えてないっちゅーことは、わかった。 
 はぁ〜あ。 
 なんも考えてないといえば、この子たちよね。 
 我らがパーティの小さなお姫様と、お姫様のナイト役の小さなドラゴン。 
 今現在の、お昼寝中の姿はなんともかーいらしい。 
 けど、わたしがこうやって、ずぅーっとうちわで風を送ってるなんて、考えもしないんだろうなぁ〜。 
 ま、そんなの考えなくていいんだけどね。 
 うっふふ。きもちよさそな表情しちゃって… 
「ぐおー…ぐがー…」 
 ――その隣のベッドでも。 
 図体のでかいトラップが、態度のでかい寝相で転がっている。ついでにイビキもでかい。 
 こっちは、かーいくない! わたしのベッドを占領してくれちゃってさー。 
 あ、だけど。 
 汗。けっこーすごいかも。 
 この人には、わざわざあおいでやる必要ないかと思ってほっといたんだけど、でも…寝苦しいかな? 
 …………しょうーがないなぁー。 


 わたしは、うちわを動かす幅をちょっと広げてやる。 
 風ふけ、風。 
 風いけ、風。 
 しょうがない。せっかく寝てるんだもん。 
 夢の中まで汗まみれだったら、嫌だもんなぁ…。 
 だから、そっと。 


 そよそよ、そより。 


 しゃーわせそうな寝息とイビキを聞きながら。 
 そうやっていると、クレイがぽそりとつぶやいた。 
「きっと…これだよな」 
「へ?」 
 ふりむくと、キットンがうなずいている。なんだぁ? 
「何が『これ』なの?」 
「おれたちがさ、こっちの部屋に来る理由」 
「…なに?」 
「こういうのがあるから、集まっちゃうんだよ」 
「……は??」 
 さっぱりわからんぞー。 
 「こういうの」…って、どういうの!? 
「つまり、こういうのだよ」 
 にっこり笑って。クレイは立ち上がり、わたしのそばにやって来た。 
 そしてタオルで、わたしの汗を優しくふきとる。 


 ふわふわ、ふわり。 


 ふいて、もいちど、にっこり笑った。 
「……『こういうの』?」 
 上目づかいで聞くと、クレイは満足そうにうなずく。 
 う〜〜〜ん。わかったような、わからんような? 
 えーと、つまり? 
「いいんですよ、パステルは何も考えないで」 
「ええ??」 
「それよりほら。手を休ませていると風が止まってしまいますよ?」 
 キットンに言われて、あわててうちわを動かす。 
 これが…「これ」? 「これ」も、「こういうの」? 
 ううむ。やっぱ、よくわかんない! 
「しかしやはり、この狭い部屋に集まるのは間違いですね。ルーミィたちが起きたらノルのところへ行きましょうか」 
「お、さんせー。あっちのが広いし、もっと風が通るもんな。ノルも一緒にいられるし」 
「最初から向こうに行けばよかったですね」 
「ははっ、まったくだ!」 
 何がおもしろいのか、ぎゃはぎゃはと笑い合う二人。 
 まぁ、ノルのいる納屋に移動するのはいいんだけど…ルーミィたちが起きるのはいつになることやら。 
 キットンが馬鹿笑いしても目を覚まさないってのに。 
 ほんとに、まぁ。 
 ……よく眠ってる。 
「ふふっ」 
「どうしましたか、パステル」 
「ねえ聞いた? 今のルーミィの」 
「いいや。寝言でもいったか?」 
「寝言っていうか…」 
 きっといい夢見てるんだろな。 
 寝ながら小さな笑い声。 


 くすくす、くすり。 



 一緒にいると、うれしいね。 
 そっか。 
 「こういうの」って、きっと、そういうの。 



 暑さはもうしばらくの間おさまりそうにない。 
 むんむん、じりじり。ほんと勘弁してほしい。 
 けど、だから。 
 そよそよ、そより。 
 きもちよさそな三人を見つめながら、わたしもいい気持ち。 
 目覚めてからは、きっとまた汗をかくだろうけど。それでもみんなでにぎやかに。 


 夏だって、これからだって。 
 一緒がいいね。









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 パレアナ様にいただきました、残暑見舞いSSですv
 なんとなく集まってしまったパーティ全員の日常話がとってもほのぼのしてて、とっても和めましたvv こんな雰囲気、大好きです!
 どうもありがとうございました!!











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